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NEW ME

小学 4 年生だったあの日、僕は憂鬱だった。「授業参観ではみんなの前で、お父さんと一緒に歌ってもらいます」なんてひどいことを言う先生なんだ。僕は愕然とした。お父さんと一緒に歌うことが嫌だったわけではない。だって、お父さんはめちゃくちゃ歌が上手いんだから。僕が憂鬱だったのは、自分の歌唱力のひどさだ。いわゆる僕はオンチというやつだった。僕の歌声をみんなに聴いて欲しくない。教室の前で、みんなを正面...

THIS IS ME

歌がうまいわけでも、絵がうまいわけでも、脚が速いわけでもなかった。子供のころにはすでに気づかされた。自分がありふれた人間であることに。 才能なんていう言葉は、僕には縁がなかった。「顔は覚えてるけど、名前なんだっけ?」10 年後の同窓会、元クラスメートたちはテーブル越しにそうささやく。「なに食べる?」そう訊かれ、「同じものを」と言ってしまう。 盛り上がる話題にためらいは感じても、頷いては笑う。...

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